アステラス製薬は2021年4月、医療関係者向け情報サイト「Astellas Medical Net(アステラス メディカルネット)」をリニューアルした。CMSや分析ツール、MAなどに「Adobe Experience Cloud」を導入し、Webサイト上の顧客行動データをリアルタイムにMR(医薬情報担当者)と連携できるようにした。
その結果、一部製品では営業効率が上がり、Webサイトとセールスとの相関も見えた。またメールマガジンから「Astellas Medical Net」への誘導数が、前年比274%に改善。さらにアクセス数13%増加、遷移率190%増加など、多くの成果が得られたという。
Webサイトリニューアルの成果と成功要因について、担当者に話を聞いた。
顧客行動データを取得し、MRとの連携を強化
アステラス製薬の「Astellas Medical Net」とは、医師や薬剤師などの医療従事者しか見ることができない会員制の専門サイトで、次のようなコンテンツを配信・掲載している:
- 同社の製品に関する詳細情報(薬剤の初歩投与量、副作用、安全性、有効性など)
- ウェブシンポジウム
- 研究論文
- 企業活動の報告など
Webサイトをリニューアルした背景には、データ活用に課題を抱えていたことが挙げられるという。
以前のWebサイトでは、コンテンツの閲覧状況などの行動データを十分に取得することができず、MRとの連携も不十分だったんです。また医師が能動的に探さないと、欲しい情報にたどり着けない状態でした。データ収集からデータを活用した配信制御まで、システム面での抜本的な見直しが必要だと考えました。
今回のリニューアルによって、医療従事者が「Astellas Medical Net」で、どのような情報を求めているのかを把握できるようにし、さらにパーソナライズされた情報を届けられるようにしました(小泉氏)
「施策を通した一貫性」「グローバル対応」のAdobe Experience Cloudを導入
リニューアルの際に導入したのが、アドビが提供する「Adobe Experience Cloud」だ。広告配信やコンテンツ管理、アクセス解析など、領域別に12種類のアドビソリューションがあり、マーケティングの各プロセスに応じて必要な機能を使い分けられるようになっている。
アステラス製薬がAdobe Experience Cloudを導入したのは、次の2つの理由があったからだという:
- 各施策において一貫性が取れること
- グローバル展開にも対応できること
Adobe Experience Cloudなら、オウンドメディアの分析やコンテンツの最適化、メールマガジンの配信などを一貫してマネジメントすることが可能です。
また、弊社は日本のみならず、欧米やアジアにも研究開発拠点、生産拠点を置き、世界約70以上の国と地域でビジネスを展開しています。ベースとなるサイトを立ち上げれば、海外サイトを横展開でき、アクセス解析の数値なども世界の地域ごとに、誰でも閲覧できます。
グローバル体制でも、分断することなく一気通貫で支援いただける幅広さも決め手になりました(小泉氏)
サイトのリニューアルにあたり、次の5つのアドビ製品を利用することにした:
- Adobe Experience Manager(コンテンツ管理)
- Adobe Analytics(データ分析)
- Adobe Target(AIを活用したパーソナライゼーション)
- Adobe Audience Manager(データ管理基盤)
- Adobe Marketo Engage(MA、マーケティングと営業の連携強化)
これらを利用することで「Astellas Medical Net」の閲覧状況がリアルタイムで把握でき、適切なタイミングで、訪問者の関心あるコンテンツをポップアップやメールマガジンなどで配信できるようになった。またデザインシステムと編集管理ガバナンスの導入により、コンテンツの品質を保ちながら、公開の速度が向上した。
アドビのコンサルティングサービスを活用し、社内で内製化できるまで並走
ただし、これだけのソリューションを自社リソースだけで使いこなすことは簡単ではない。そこで導入時のみでなく導入後も、アドビのコンサルティングサービスを活用して一部のマネジメントや運用をアドビに頼り、将来的に自走できるように徐々に段階を踏んでいった。
アドビの橋本氏は、「元々のビジネスゴールから考えるとアドビのツールを導入することは、手段のひとつに過ぎません。単にサイトをリニューアルするだけでなく、プラットフォーム全体を刷新するような考え方でリニューアルプロジェクトを進めました」と語る。
実はリニューアル前に、旧サイトにAdobe AnalyticsやAdobe Targetを入れ込んで、事前にアドビのソリューションをいくつか試してもらったんです。またリニューアルの半年前から、『デジタルマーケティング研修会』や『データ活用のトレーニングワークショップ』を実施しました。
そうすることで、新しいソリューションに対するアステラス製薬様側の不安を払拭することができ、アドビ側としても、旧サイトを細かく分析することができました。
毎週KPIを一緒にチェックするなど運用まで並走し、徐々に内製化していただくという手順を踏むのは、リニューアルプロジェクトの成功ポイントだと考えています(橋本氏)
こうした事前調査や事前トレーニングは非常に有意義だったと小泉氏も続ける。
今までMRと医療従事者は、対面で商談を行うのが本流でしたので、デジタル活用に関して『本当にそんなことやって意味あるの?』という目で見られることもありました。周囲への説得材料を得るという意味でも、この手順は有効でした。
リニューアル後も継続的にワークショップを実施し、Adobe Analyticsを活用した基本的な分析は社内の多くのメンバーが担えるようになり、それによって生まれた施策数は、昨年度だけでも80を超えます。
最近では『こういう切り口のデータが欲しい』といった声が各部署から聞こえるようになり、全社的にデータ活用の機運が高まっています(小泉氏)
導入前からトレーニングワークショップを実施するなど、通常のサイトリニューアルよりも多くの工程を要したプロジェクトだが、アドビによるサポート体制によって組織の一体感が生まれ、結果としてスピーディーに進行したという。
期待以上に得られたリニューアル後の成果
Webサイトリニューアル後の成果をもう少し詳しく見ていくと、大きく3つあるという。
成果1メールコミュニケーションが前年比274%
ユーザー行動や属性で細かくセグメントを切り、メールマガジンの開封時間に合わせて配信するなどの最適化を行ったことで、メールマガジンから「Astellas Medical Net」への誘導数が、前年比274%に改善できた。
サイトリニューアルによってコンテンツ制作のスピードが向上し、パーソナライズされたメールに掲載できるコンテンツが増加したことも要因の一つであるという。
成果2医療従事者の行動データをリアルタイムにMRと連携
「Astellas Medical Net」を閲覧したWeb上の行動データをもとに、医療従事者の次の行動を予測し、担当MRに通知が届く仕組みに。これにより、一部の製品では、MRのディテーリング(医師や薬剤師に医薬情報を提供すること)をはじめとした営業効率が上がり、セールスとの相関も見えた。
成果3満足度調査で60%以上の医師から高評価
「Astellas Medical Net」に訪問している医師の半数以上が、リニューアル後のサイトを「役に立つ」「有効である」と回答。また「SSO(シングルサインオン)を付けてほしい」などの具体的なリクエスト・改善点も可視化できた。
ほかにも、次のような成果が出ている:
- 全体アクセス数 13%増加
- 遷移率 190%増加
- ウェブセミナー閲覧数 117%増加
- PDFダウンロード数 38%増加
いずれも期待以上の数字で、今後は改善点を解消しつつ、この数字を引き上げることが情報提供サイトとしての次の使命だと小泉氏は語る。
より俯瞰的な目線からは、『ターゲット医師のインサイト把握』『マーケティング部門とセールス部門におけるよりシームレスな連携』『コンテンツ制作に関わるメンバーのケイパビリティの向上』が、今後の課題だと考えています。
医師が今どんな情報を必要としているのか、忙しくとも医師がキャッチアップしたい情報とは何なのか。アドビのソリューションを駆使してこれらの情報を見極め、それが満たされるコミュニケーションを、Webサイトを通して設計し続けたいですね(小泉氏)
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業Webサイトとマーケティングの実践情報サイト - SEO・アクセス解析・SNS・UX・CMSなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:Webリニューアルでメール反応が274%改善、アステラス製薬が挑んだ“マーケ一貫マネジメント” | Webサイトリニューアル特集
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